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 Aug 1,2019

■サンダーバードと写楽

 その昔、テレビでサンダーバードを観ていて、トレーシー家のお父さんの指令デスクの周囲に浮世絵のような絵が飾ってあったのを覚えている人がいるかもしれません。トレーシー家はセレブなので、世界中の美術品のようなものが部屋に何気なく置いてあるわけですが、目立つ場所に日本のものが置かれていたのは子供心にもよく覚えていたのです。

時代によって、この指令デスクの周囲もアップデートしているようで、浮世絵は2点だったり3点だったりしますが、どれも写楽(東洲斎写楽)です。デスクの背後と向かって右の壁にかかっているのは、見覚えのある典型的な写楽の役者絵で「二世瀬川富三郎の大岸蔵人の妻やどり木」と「四世岩井半四郎の乳人重の井」(を模写したもの)です。


 

さらに興味をそそるのは向かって左の男の全身を描いた絵です。これも写楽の「中島勘蔵の馬子寝言の長蔵」という役者絵だそう。馬子のような人物が出刃包丁を逆手に持って今にも襲いかかりそうな物騒な構図ですが、歌舞伎の「神霊矢口渡」という演目の三段目、「焼餅坂の段」に出てくるシーン。この長蔵、とんでもない男で自分の顧客である旅の途中の女たちに欲情し、襲おうとする。ところが、女たちの機転によって、なんとか難を逃れる。腹を立てた長蔵が女たちを追いかけると、今度は法具の入った箱を背負った男が通りかかる。長蔵はその箱を奪おうと斬り合いになり、出刃を出したシーンがこれというわけです。


絵の左側の「東洲斎写楽画」の落款に続く、丸に「極」の印は検閲をパスしましたという極印で、一番下の山に葉のマークは写楽を世に出したプロデューサー蔦屋重三郎の印だそうです。サンダーバードに出てくるこの絵はこの落款まで模写していますが、なにやら「ブレードランナー」に出てくる漢字のようです。

 

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