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 Jun 22,2022

■福富コレクション

 昭和のキャバレー王・福富太郎氏が有数の絵画コレクターだったことはよく知られていると思います。

近年ではそれを一堂に集めて公開する展覧会も開催されていますが、そのコレクションは絵師が名のある人かどうかに関係なく、自分が良いと信じた作品を集めるというものだったようです。

コレクションでまず筆頭に上がるのは鏑木清方ですが、それがどれも女の情念がこもったような作で、淡白な印象の「築地明石町」などに比べると、本当に同じ人の作なのかと思うほどです。下写真は両方とも清方作ですが、左は近松の道行の様子を描いた「薄雪」、そして右は「妖魚」。切手の題材になるような清方の作が口当たりの良い、万人受けするものだとするなら、これらは真逆で清方のダークサイドを反映しているのかもしれません。大正時代にはこのような泉鏡花的な妖艶な作風が流行った時期があったということですが、近年、このような作風の清方も再評価されているようです。

また、コレクションの中には戦争画も多数あり、私もどこかで見た記憶のある巨大な機影が川沿いに並ぶ家の屋根を覆う向井潤吉の「影(蘇州上空にて)」もそのひとつでした。約100点の戦争画は福富氏の没後、遺族の手によって東京都現代美術館に寄贈されましたが、その中には宮本三郎や藤田嗣治の作も含まれていたそうです。ここ10年ぐらいでようやく戦争画も正当な評価がされるようになりましたが、作家の複雑な感情が反映されている戦争画には埋もれてしまうには惜しい傑作が少なくありません。

慧眼のあるコレクターによって忘れられていた絵や作家に光が当たり、美術史が書き換えられるケースもありますが、福富氏もまさにそのようなコレクターのひとりだったのだと思います。


 

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