■TEXT

 Jul 20,2022

■緑の目の山男

 エルヴィスの有名な曲で「トラブル」(1958年)という曲があります。

1950年代の曲にしては大変挑発的な歌詞で、トラブルに巻き込まれそうな主人公が「俺はワルだからちょっかい出すなよ」という歌です。

その中に'my daddy was a green-eyed mountain jack'という一節が出てきます。

意味は「俺のおやじは怪物みたいな男だぜ」という感じだと思うのですが、アメリカでは緑という色がどうもモンスターの定番の色のようです。また、mountain jackという言葉も、日本で山師という言葉もありますが、いかさま野郎とかのっとり野郎とかそんなニュアンスでしょうか。

まあ、自分で自分をevil(邪悪)と言い切ってしまうオラオラぶりもすごいですが、こういう悪ぶりを表明する歌詞は黒人のR&Bの界隈がルーツのような気がします。ラリー・ウイリアムスの1958年の曲に文字通り「バッド・ボーイ」という曲もありましたし。

「トラブル」を書いたのは最も初期に黒人音楽を取り入れたと言われる白人のソングライターチーム、リーバー=ストーラー。他の作品に「カンサス・シティ」、「ハウンド・ドッグ」、「スタンド・バイ・ミー」(ベン・E・キングとの共作)など。「トラブル」のヴォーカルとリフが交互に出てくる形式はマディ・ウォーターズの「フーチー・クーチー・マン」(1954年)など黒人ブルースの界隈でよく聞かれます。

ちなみにエルヴィスの1956年のヒット曲「ハウンド・ドッグ」が最初に世に出たのは1952年で、オリジナル歌手は黒人ブルース歌手のビッグ・ママ・ソートソンですが、コテコテの黒人ブルース歌手の歌が実は白人によって書かれていた事実は興味深いです。黒人音楽も白人が白人向けに「翻訳」しなければ受け入れられなかった時代だったのだと思います。


 

■■■■■■■■ kishi masayuki on the web


<<   TEXT MENU   >>

HOME