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 Dec 7,2022

■見えている景色

 あるライブでユーミンがギタリストの鳥山雄司さんの音楽を評して、「お客をおきざりにして、なんぼの音楽」と言いましたが、さすがにうまいことを言うものだと。

いや、それほど、アーティスト本人とスタジオミュージシャンの見えている景色は違うということなのだと思います。私は駆け出しの頃に、スタジオミュージシャンに対してはある種の先入観があって、彼らはとにかくなんでもできちゃう人たちなので、どんな曲でもなにがやりたいかをすぐに判断して、テクニックを駆使して、寡黙に、時間内で質の高いものに仕上げる人種と思っていたのですよ。実際、その頃のスタジオミュージシャンはスタジオ入りするなり、挨拶もそこそこに、譜面を初見で読み、セカンドテイクぐらいでもう完成しているというケースが多かったのです。極端な例では誰の曲かも知らずに演奏していたということもあったとか。

そのようなお仕事お仕事している制作現場がいやで、わざわざバンド単位でレコーディングする人もおりましたが、実は名うてのスタジオミュージシャンたちの中にもやる曲の歌詞の内容を教えて欲しいとか、曲全体に対しての感想を言う人は少なからずいたのですよ。これは誰もがお仕事でスタジオに入っていると思っていた私にとっては新鮮な驚きだったのです。

私が自分のアルバムを作っていた頃、ドラムの林立夫さんにこの曲はいいとか、ドラムの菊池丈夫さんに仮歌を歌詞付きで歌ってと言われたのはそういうことだったのだと思います。つまり、アーティスト本人と演奏するミュージシャンとは見えている景色は違うけれど、それが響き合って音楽全体が豊潤になるのだと。

それにしても私の時代にはレコードを作るということは、ファーストコールのスタジオミュージシャンを揃えて大きなスタジオでレコーディングするのが普通でした。それは売れていようが、新人であろうが同じでした。いい時代だったと思います。


 

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