■TEXT

 Sep 19,2023

■すべてのことはメッセージ

 この本、一応、「小説」という態をとってはいますが、「八王子の由実ちゃん」がユーミンになるまでの物語、予想していたよりも遥かに面白かったです。著者の山内マリコさんは実際にユーミンに何度も長時間の取材をして、実家まで案内されたとのこと。

で、本に載っているユーミンの高校時代の話。友達と学校のそばの2階にある喫茶店に行って、1階に先生が来てしまった時のエピソード。ユーミンが迷うことなく、2階の窓から飛び出し、隣の平屋の屋根を伝って逃げたというあたり、大笑いしました。これはVery Yumingだと(笑)。

うちの中高も校則が異常に厳しかったので、こういう感覚はすごく分かります。先生に捕まるのは案外、普通の子で、最初から校則破りの自覚があり、心構えが出来ている輩は、要領がよく、対処方法を常に頭でシミュレートしているので絶対しっぽをつかませないという・・・(笑)。

この本を読んでからかつての自叙伝「ルージュの伝言」(1984年)をもう一度読み直しましたが、「ルージュ〜」の方はこんなに生々しい話も載ってたのかという印象。重複している話もあり、この2冊を正と副のセットとして読むとだいぶ若き日のユーミンの実像を掴める感じです。

私が思ったのは、ユーミンは確かにお嬢育ちなのですが、決して箱入りで蝶よ花よと育てられたような人ではなかったのだなということ。そして、日常にころがっている普通の人なら見過ごしてしまう光っているものを見逃さずに、拾い上げる感性を持っていたということ。そういう感性は、持って生まれたもので、人はそれを天性とか恩寵と呼ぶのでしょう。おそらく、本を読んだり、映画を観たりして、心を揺さぶる部分は自分の元々持っていたものと答え合わせをするという作業なのだと思います。

強い感受性、光っているものを瞬時に選別する力、それを形にしてアウトプットする力を持った「八王子の由実ちゃん」はいずれにせよ、なにものかにならざるを得ない運命を背負っていた人だったのでしょう。

(追記: この本の表紙の写真、どこかで見たことあると思っていたら、アルバム「ひこうき雲」の中ジャケの写真でした)


■■■■■■■■ kishi masayuki on the web


<<   TEXT MENU   >>

HOME