■フロム・エーと坂本龍一さん
フロム・エーはルクルート社が発行していたアルバイト求人雑誌。私は1983年と1984年の2年間、CM音楽の歌唱を担当しました(作詞は湯川れいこさん、作曲は井上大輔さん)。
CM音楽は通常15秒と30秒の2タイプを作って終わりですが、フロム・エーの時はめずらしくフルサイズを作りました。そして、このCMはテレビで頻繁にやっていたので、反響があり、その流れでレコードを出そうということになったのだったと思います。
で、これは最近、知った話ですが、このレコードになった1983年の「From A to
Heaven」を坂本龍一さんがCMで聴いて、いい曲だと思い、なんという曲か問い合わせをしたというのです。坂本さんはこの曲を洋楽だと思っていて、日本人が作って、日本人が歌っているというのでびっくりしたとご本人がラジオで述べています(NHKFM サウンドストリート 1983年5月31日放送)。
坂本龍一さんのトーク(音が出ます)
ちなみに私はこの仕事は単なるCM仕事のひとつとして引き受けたに過ぎず、誤解を恐れずに言えば、特に思い入れのようなものはありませんでした。作曲の井上さんは完全に洋楽のマナーでこの曲を書いており、そのあたりに坂本さんが反応されたのかもしれません。単純に言えば、一部のCM音楽の世界は分かりやすさや大衆に迎合するという傾向ではなく、時々の最先端の流行を切り取ったタイプなので、クロウト受けする部分があるということでしょうか。
商品が第一の商業音楽という前提であるはずのCM音楽が、時に聴く人を置き去りにするほどのアーティスティックな方向に傾くアンビバレントは面白い現象だと思います。
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