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 Jan 10,2025

■ヤクザと宇宙服

 俳優の池部良さんで私がまず思い浮かべる映画は「青い山脈」(1949年)。この映画は今思えば、占領下に作られ、GHQの方針で女性の権利や自由な恋愛など民主主義的なものがかなり色濃く入っていると思います(戦後、日本映画にキスシーンが登場するのはGHQの方針だった)。池部さんは旧制高校の生徒を演じていますが、実年齢は30代でした。

次に思い出すのは「早春」(1956年)、小津監督の作品ですが、ここで池部さんが演じるのは優柔不断でちょっと情けない感じのサラリーマンです。

そして、最後は「乾いた花」(1964年)。ここでの池部さんは世を捨てた感じのヤクザ者。1960年代の横浜の風景が印象的ですが、このあたりから池部さんはアウトロー系の役が多くなります。

思えば、上原謙さんや宝田明さんは汚れのような役をやっても、その典型的な二枚目というイメージは払拭できませんでしたが、池部さんはどのようなタイプの役でも溶け込み、日本の俳優でこれほど幅のある役をやった人はあまりいないのではないかと思うのです。さらに驚くのは「早春」と「乾いた花」の間に東宝の特撮ものである「宇宙大戦争」(1959年)と「妖星ゴラス」(1962年)に出ているのですよ。

日活でクールな役をやっていた二谷英明さんが、テレビのSFものである「マイティジャック」に出演した際、子供じみたヘルメットをかぶるのにとても抵抗があったという話を聞いたことがありますが、池部さんは「宇宙大戦争」で宇宙服を着て、光線銃まで持っているのです(ちなみにこの映画では千田是也さんも宇宙服を着ている)。さすがに、土屋嘉男さん(黒澤の「七人の侍」に出演)のように宇宙人役はやりませんでしたが、小津作品で主役クラスの人が宇宙服を着るというギャップは驚くものがあります。そういえば、黒澤作品でよく見る千石規子さんがやはり東宝の「怪獣大戦争」(1965年)で下宿屋のおばさんをやっていたのも驚きました。傑作「幕末太陽傳」のフランキー堺さんも東宝の特撮ものの「モスラ」と「世界大戦争」(ともに1961年)に出演していますが、さすがに宇宙服は着ておらず、前者では新聞記者、後者では狂言回し的なプレスセンターの運転手役でした(ただし、フランキーさんは「幕末太陽傳」と同年の1957年に「フランキーの宇宙人」というコメディにも主演している)。

もうひとつ、池部さんで忘れられないのは、ショーケンのヒット作「傷だらけの天使」(1974年)に池部さんが出演した回のこと。あのクセの強いショーケンを池部さんが食っていたのですよ。おそらく、ショーケンの不定形な演技を即座に見抜き、池部さんはモードを変えたのだと思いますが、このあたりはその長年のキャリアを感じさせ、すごいと思った覚えがあります。ちなみに「傷だらけの天使」は東宝系ですから、かつての東宝のスターがたくさん出演していましたが、ほかの方はショーケンとからむと、あまりにショーケンが定型の演技ではないためにかみ合っていない感じがするのですが、池部さんはあの短時間の撮影の中でよくあのドラマにぴったりのキャラを作ったものだなと驚くのです。


 

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