■「トコリの橋」に登場する日本
1954年のハリウッド映画で「トコリの橋」という作品があります。原作はナンシー梅木がアカデミー賞を取ったことで有名な「サヨナラ」のジェームス・ミッチェナーです。朝鮮戦争を背景に展開する話ですが、この前半に主人公のウイリアム・ホールデンが空母で横須賀に寄港し、束の間の休暇をするという場面がでてきます。
ホールデンが横須賀から真っ先に向かうのが、箱根の富士屋ホテル。エントランスは実際のホテルでロケされていますが、屋内は全てセットでの撮影です。この屋内のセットは富士屋ホテルを参考にしており、本館のサンパーラーに上がる赤い手すりの階段や龍の装飾などが再現され、かなりよく出来ていますが、窓のすぐそばに鳥居があるのは御愛嬌。また、例によって、ハリウッドの日本描写にありがちな混浴の風呂の場面が出てきますが、これもセットです。ホールデンは日本ロケに参加していますが、富士屋ホテルのエントランスで車から降りてくるシーンの背景は合成で、妻役のグレース・ケリーは日本には来ていません。
また、ホールデンがトラブル解決のために箱根から東京へ行くのですが、ここのシーンの最初に出てくるのが芝の増上寺の大門。この大門のそばのミリタリーポリスという設定の建物には「東京美術倶楽部」という表札が見えます。さらに続けて出てくるのは銀座にあったという「ショウボート」というキャバレー(このシーンは大昔に私がテレビで初めてこの映画を観た時はカットされていました)。この「ショウボート」のホステス(淡路恵子)が米兵とひと悶着あるという設定ですが、この店内は実際にこのキャバレー内でロケされていると思われます(ちなみにホステスと問題を起こす米兵はミッキー・ルーニーで、「ティファニーで朝食を」であのユニオシを演じた俳優)。
この「ショウボート」というキャバレーは船をモチーフとした店で、店内の頭の上をレールに乗った小さな船が走っていたり(ホステスも乗っていて、これでビールなどをサーブしています)、バンドのスペースが回りながらエレベーターのように上下に動いたり、かなり奇抜な仕掛けがあった店のようです。そういえば、GSの流行した1960年代、銀座ACB(アシベ)というジャズ喫茶(今でいうライブハウス)があり、そのステージも回転しましたが、そのようなギミックは1950年代からあったという貴重な映像です。
映画の方は前半のややコメディ的な展開から、後半に入ると一転。パイロットのホールデンが戦線に復帰し、シリアスな様相を呈します。米海軍の全面的な協力の元に製作されているので戦闘機や空母はほぼ実写。トコリの橋を爆撃するシーンや不時着のシーンも実写と特撮の境目が分からないほど迫力があります。そして、結末のバッドエンドは、この映画のテーマが定型の戦争映画ではないことに気付かされ、心に残るのです。
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