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 Mar 16,2025

■古書店という稼業

 ちょっと前に古書店で文庫本を買ったら、めずらしくブックカバーをつけて渡してくれたんですよ。そのブックカバーはその店のものではなく、今は閉業してしまった古書店のものでした。

この閉業した古書店の店主はすでに故人ですが、神奈川の古書組合の理事長もされていた方で、業界では重鎮だった方とのこと。本の買取り依頼の電話で「稲垣足穂って知ってますか?」と言われ、「古書屋を馬鹿にするんじゃない。あなたとは取引きしたくないから他を当たりなさい」と言ったという硬骨な方だったようです。

常々、古書店という稼業を営む理由は、商売よりも上位にある何かではないのかと思っておりました。本が大好きなのは言うまでもなく、忘れられてしまった作品に対して再評価の機会を与えるメッセンジャーのような使命感とか、もっと言えば、本という今や忘れ去られそうなメディアを固守する最後の砦という自覚があるのではないかと勝手に思っております。


 
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