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 Mar 26,2025

■1980年のビートルズ

 私にとって1980年代前半はビートルズを生涯で一番忘れていた期間だったかもしれません。

この時期、音楽業界で好きなグループはビートルズと言うのは、いかにも時代遅れな感じがしたし、ビートルズはもうこのままフェードアウトしてゆく存在なのかもというムードさえありました。そして、そのムードに拍車をかけるように起こった1980年の2つの出来事。

メンバーが変わり、とうに全盛期を過ぎていたウィングスの来日公演の中止、そして、年末のレノンの死。私はレノンのこの禍々しい知らせを、できたばかりだった渋谷109のエントランスで友人から聞きました。

この時代の作品と言えば、マッカートニーはいかにもマッカートニーらしい物量作戦の「ロケストラ」、そして、レノンはノスタルジックな「スターティング・オーヴァー」。どちらの曲もまだ若かった私には、どこか作為的に聴こえ、心を揺さぶるものではありませんでした。私の中ではマッカートニーは「ヴィーナス・アンド・マース」で終わっていたし、レノンはもっと前についていけなくなっていました。

一方、キャピトルレコードがこの時期にリリースしたビートルズが、ハリウッドボウルのライブと未発表音源をまとめたレアリティーズ。ブートで散々聴いたライブやレアテイクを高音質で聴けるのは嬉しかったけれども、どちらもコアなファンしか手を出さぬ代物。本家のキャピトルがこのようなものを出すとは、いかにも残務整理と感じ、ビートルズが過去のものになったことに否応なく気付かされたというわけです。


 
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