■TEXT

 Apr 12,2025

■わたしの懺悔録

 これは聞いた話ですが、ある大物ギタリストのスタジオでの出来事。

レコーディングの時にプロデューサーがその大物ギタリストに対して、「もうちょっと音を固くしてくれますか」と言って、ギタリストが音を固くすると、今度は「ちょっと固くなりすぎたので少し戻してもらえますか」というやりとりが何度かあって、切れたギタリストが「固いの、柔らかいのと、焼きそばじゃねぇ」と言って帰ったという顛末。

レコーディングでプロデューサーとミュージシャンの立場というのは微妙で、プロデューサーはプロデューサーで自分はミュージシャンよりも上位にいると思っている人もいますし、スタジオにおいてはミュージシャンは一番上位の存在だと思っているミュージシャンもいると思います。今はそんなことはないと思いますが、1980年代当時の売れっ子ミュージシャンはとにかく忙しかったので、一日何本も掛け持ちしていて、一様に疲弊しており、ピリピリしたムードの方も少なくありませんでした。スタジオに到着するなり、ローディに楽器のセッティングをさせ、自分は出前でなにかをとり、いきなり無言で食事をするという現場も何度も目撃しています。

いや、私も駆け出しの頃、大物ミュージシャンに対して、音色について意見したことがあるので、このあたりは実にナイーブな問題と心得ています(その時はさすがに私が直接意見するのは角が立つと判断したディレクターが柔らかい言葉にしてトークバックで伝えたのをよく覚えています)。

私は立場をはっきりさせようなどという気は毛頭なく、ただ感じたままを進言したのですが、ミュージシャンにはミュージシャンの矜持があり、こちらが想像出来ないほど多くのことを考えた末にその音色に行きついているということを駆け出しの私には把握出来なかったのです。あの時、学生に毛の生えたような小僧の思い付きの意見を聞き、まことに慈悲深い態度で受け入れてくれた大物ミュージシャンはドラムの山木秀夫さんでした。


 
 kishi masayuki on the web


<<   TEXT MENU   >>

HOME