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■コンパートメント 「コンパートメント」はユーミンのアルバム「時のないホテル」(1980年)に収録された1曲。同アルバムの中では最も重い、けれど、重要な曲です。 この曲を初めて聴いた時に、驚きとともに、ああ、ユーミンのデカダンスもついにここまで来ちゃったかという感慨を持ちました。驚いたというのは、明るくて、軽いことが前提のニューミュージックの世界で、この「自死」というテーマが「セックス」と同様に触れてはいけない異物のように思えたからで、それをあえて取り上げたユーミンにとっては、この時期、どうしても避けては通れない重要なテーマだったのでしょう。 ユーミンの曲の中で「死」が出てくるのは「ひこうき雲」(1973年)や「ツバメのように」(1979年)や「雨に消えたジョガー」(1980年)がありましたが(深読みすれば1974年の「瞳を閉じて」の「遠いところへ行った友達」もこの世にはいないのかも)、これらは死んでしまった誰かを歌った歌です。主体である私が死のうとしているのは「12階のこいびと」(1978年)ですが、これは仮定の話で、具体的に行動に移しているのは「コンパートメント」が初ではなかったかと思います。 私はユーミンの作品が単なる出来の良い、軽いポップミュージックの範疇に収まっているなら、これほどまでに惹かれなかったと思うのです。ピカソがその作風を全く変えてしまう「青の時代」や「キュビズム」があるように、ユーミンもそれまでの作風から180度転換して、「コンパートメント」のような、ちょっとはずれると取り返しのつかないような、イチかバチかの世界を送り出すことが凄いと思うのです。さらに、それをユーミンの作としてぎりぎりのところでまとめてしまう力量。これを天賦の才と呼ばずして、何と呼ぶのでしょう。
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