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■NHKオーディション

 私が音楽の世界に入ってから、最初の4年ぐらいはレコード会社専属のシンガーソングライターとして活動していたわけですが、その間には色々と一般のタレントのような経験もあったわけです。

その中のひとつにNHKオーディションがありました。これはプロ・デビューしている歌手を対象に行われ、これにパスしないと、NHKの媒体には出演できないということでした。

どのような方法で行われるかというと、かなり広いスタジオに歌手全員が集められて、その真ん中で一人一人順番に持ち歌を歌っていくのです。複数の審査員もそこに同席しており、私が受けたときは藤山一郎さんが審査委員長だったように記憶しています。

もちろん、歌謡曲も演歌も民謡もポップスもロックも同じ場で審査されるのです。大体の歌手はカラオケを持参するのですが、同じスタジオにはNHKが用意したバンドもあって、そちらも選択できるようになっていたようです。

このNHKバンドの編成は確か3人でギター、ベース、アコーディオンでした(オプションで三味線のプレイヤーも待機していました)。

私は三味線でもアコーディオンでも歌ったことがなかったので、当時の所属事務所はバックバンドとPA(ライブなどが行われる際に使われる拡声装置)、PAのオペレーターをわざわざ用意してくれました。

何人かの人が歌い終えて、私に順番が回ってきました。音が出た瞬間、「もらったな・・・」と思いました。それはそうです。そのスタジオで他の人が使っている拡声装置といえば、ライブハウスでも使わないような備え付けの小型のものだったので、音量や音圧自体が全然違うのです。

気心知れたバックバンドと自前のPAという心強い味方を得て、曲はいい調子で進行していきました。

ところが・・・

曲半ばでいきなりドラムの生音と私の生声だけになってしまったのです。何が起こったかというと、あまりに大きな音を出したために、スタジオのプレーカーが飛んでPAの電源が落ちてしまったのでした。

そういう事態になると、人間は開き直りで案外落ち着いているものです。私は目の前の無用の長物と化したマイクをはずして、出来るだけ大きな声で歌いました。いわば
「強制ライド・オン・タイム状態」(ってわかります?・笑)ですな。

その根性?が認められたのがどうかは定かではありませんが、このオーディションはなんとかパスしたのでした。


                                                          2002/8/25

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