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■Pretender制作裏話

 
回はセカンドアルバムの「Pretender」にまつわる話などを。

このアルバムは前作と異なり、かなりアルバム全体のカラーを最初から絞り込んで制作しました。頭の中に漠
然とあったのはジノ・バネリのアルバム「Nightwalker」の流れでした。

収録されている曲の何曲かは、かなり前から用意していた曲でした。その中の1曲「FLY TO LIGHT」(まだこの時はタイトル未定)はデモの状態で、他のアーティストの曲のプレゼンにもかけられていたのです。アルバムのレコーディングの準備が進み始めたころに、ジャニーズ系のあるグループ用にこの曲を使いたいとのオファーがありました。これは私にとっては作家としてブレークする大きなチャンスでしたが、やはりアルバムに必要な曲だと判断して、そのオファーは断ったのです。ソロは青山徹氏(ビンテージのギブソンES-355を使用)、後半の変拍子と生ストリングスによるプログレチックなアレンジは武部聡志氏のアイデアでした。

「Music Forever」のコーラスは私一人で全部やっているのですが、その時にディレクションしたのは、編曲の武
部氏。今でもこの曲を聴くたびにピッチにシビアな武部氏のダメ出しを思い出します(笑)。

「街角のプリテンダー」の終盤で鳥山雄司氏によるギターシンセのプレイを聴くことができます。

「ラハイナ・ブルームーン」ではアルバム中、唯一シーケンサーが使われました。シンセはオーバーハイムだったと思います。ちなみにこのアルバムが録音された1983年当時、「打ち込み」はまだ生演奏の代わりとなるほど発達していませんでした。もしも、このアルバムの録音があと数年遅かったら、全編打ち込みのサウンドという可能性もあったはず。そして、黎明期の打ち込みのサウンドは今聴くと、非常に貧弱であったことを考慮すれば、このアルバムが全て生演奏で録音されたことはラッキーだったと言えるかもしれません。

アルバムB面でのハイライトは「街角のプリテンダー」(インスト)〜「雨のシルエット」〜「コロシアムの影」に続く流れです。「街角のプリテンダー」(インスト)のソロ楽器はハーモニカ系で行こうとすぐに決まったのですが、「雨のシルエット」のソロ楽器を何にするかはかなりの試行錯誤がありました。私がギターでソロを試みたりもしたのですが、結局、武部氏がピアニカで弾いた叙情的なソロが採用となりました。「コロシアムの影」は「街角のプリテンダー」と並んで私が自分のために書いた曲の中ではかなり納得のいく形になりました。

ミックスはできるだけドライで、というのが私の要望でした。私は特別な狙いのある場合を除いては、フィル・スペ
クターのようなエコー成分が飽和した感じのサウンドは好みではなかったのです。特に、ボーカルに関しては極
力、エコー感のないサウンドを目指していました。当時のミックスの傾向としてはめずらしかったと思います。

<<アルバム「Pretender」ジャケット撮影時のアウトフォト
ジャケットのデザインのために私が書いた当時のスケッチ>>

                                                           2002/9/21

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