■「羅生門」のフィルム
最近、いたく感服してしまったのは映画「羅生門」(1950年)のカメラマン宮川一夫さんの生前のインタビューです。
その中のひとつの話。この映画を撮ることになった時にテストで2つのフィルムを使ったのだそうです。ひとつがアメリカのコダック、もうひとつが日本のフジです。当時はまだ日本のフィルムの品質はあまり良くなく、コダックに比べるとその映像はザラザラした粒子の粗いものでした。ところが、黒澤明監督と宮川さんの選んだのはフジで、そのザラザラした銅版のような質感がこの映画には必要だとの判断からでした。
残念ながら、何度もニュープリントされた過程でこのザラザラした質感はほとんどなくなってしまったと宮川さんは語っていますが、フィルムの品質によるハンディさえも逆手にとってプラスに変えて行くプロの仕事ぶり。表にはあまり出てこないけれども、このような無数の試行錯誤の上に「羅生門」があったのだなと思ったのです。
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