■TEXT

Jan 30,2017

■「サンダ対ガイラ」のDNA

 宝の怪獣映画「サンダ対ガイラ」(1966年)には、音楽面で他の怪獣映画では見られないような実に印象的なシーンが出てきます。

ビルの屋上のビアガーデンの様なところで黄色いドレスを着た白人の女性シンガーが「Feel in my heart」という英語の歌を歌うのです(写真上)。このシーンがなぜか意味があるように長く、間奏も含め2ハーフのフルコーラスを丸々歌うのです。曲はバカラックがディオンヌ・ワーウィックに書いた曲のような、あるいは007の音楽のジョン・バリーが書く歌もののような音楽に精通している人が組み立てた感があり、一体誰が作ったんだろうと調べると、なんとこの映画の音楽も担当していた伊福部昭氏の作でした。伊福部さんといえば言うまでもなく、ゴジラの音楽をはじめ日本映画全盛期の映画音楽を多数手がけた方です。

伊福部さんはポップス系歌ものだとこんなにモダンな曲も書くんだと驚くと、この曲にまつわるさらに驚きのエピソードが。この「サンダ対ガイラ」という映画は日米合作で最初からアメリカでの公開(米タイトルはThe War of the Gargantuas)を念頭に製作されましたが、アメリカにこのシーンとこの曲に多大な影響を受けていた将来のクリエイターたちがいたのです。しかも複数の。

まずはアメリカで1970年代に活躍したバンドDEVO。このメンバーの中に「サンダ対ガイラ」のファンがおり、なんとDEVOがこの曲のカバーをしていたのです。そのタイトルが原曲のサビの部分の歌詞から引用した「The words get stuck in my throat」(ただしDEVOのバージョンは原曲とはかけ離れています)。さらにアメリカに「Scooby Doo」というアニメがあり、その2010年〜2013年のシリーズ11「Scooby-doo! Incorporated」シーズン1、エピソード9の「Battle of the Humungonauts」でこの「サンダ対ガイラ」のビアガーデンシーンにそっくりなシーンが新たにカバーされた曲(こちらのカバーは出来がいいです)とともに出てきます。写真上が「サンダ対ガイラ」、下が「Scooby Doo」ですが、一目瞭然、シンガーのドレスや照明ばかりではなく、バンドのコスチュームまでほとんど同じという徹底ぶりです。歌い終わってシンガーの背後にモンスターが現れるところも同じです。加えてアニメの終盤にはグリーンのモンスターとブラウンのモンスターが戦うというシーンまで出てきます。

他に「サンダ対ガイラ」を子供の頃に観て強く印象に残っていると語っている人は「キル・ビル」のクエンティン・タランティーノ監督、「パシフィックリム」のギルレモ・デロ・トロ監督、ブラッド・ピット氏(2012年のアカデミー賞授賞式のスピーチでこの映画について触れている)など。世界のクリエイターたちに影響を与えた日本映画はクロサワ作品ばかりではなかったのです。

■■■■■■■■ kishi masayuki on the web


<<   TEXT MENU   >>

HOME